さっちの雑記帳

今のところは現代ギリシア語に関する記事を上げると思います。

14億光年の壁

f:id:musclecubist:20210311001750p:plain

"South Pole Wall (SPW)" などの密度分布。SPWには黒いワイヤフレームが重ねられています。D.Pomar`ede,R.B.Tully,R.Graziani,H.M.Courtois,Y.Hoffman, andJ.Lezmy,Astrophys.J.897,133(2020), arXiv:2007.04414 [astro-ph.CO]より。

この記事はさっち(@MC_such)の翻訳チャレンジの記事一本目としてギリシャ語版euronewsさんの記事を翻訳したものです。記事のタイトルを直訳すると「巨大な"南極の壁"」*1になりますが、「14億光年の壁」とした方がなんかカッコいいかなと思い、こんなタイトルにしました。

訳文

天文学者らが尋常ではない二つの発見をしました*2。発見されたものの一つは星間空間の奥深くにある、極端に丸く辺縁が明るい謎の四つの物体。もう一つは14億光年もの長さに広がり「南極の壁」と命名された大規模構造でした*3*4*5

二つの電波望遠鏡(オーストラリアのASKAPとインドのGiant MetreWave)によって発見され、光学・赤外線・X線では見えない四つの環状の物体は、今日までに発見されたどの天体とも似ていません。「奇妙な電波円」と命名され、天文学者らは依然として地球からの距離を推定できていません。差し当たりネット上のarXiv*6で公表されており、また天文学系の雑誌 "Nature Astronomy" で出版待ちです*7

その性質に関して一つのありうる説明として、銀河系外宇宙からの衝撃波の残骸や、どこかの電波銀河*8の活動というのが考えられています。しかしながら、天文学者らがこれまで出会ったことのない何か新しい現象に関係しているかもしれません。

一方宇宙の三次元マップは、地球の空の最南端近くにある、今日まで発見されていない宇宙の大規模構造物のうちの一つを明らかにしました。それは14億光年*9にわたって広がり数十万個の銀河を含む、信じられないほど巨大な「壁」だと考えられています。「南極の壁」と呼ばれる物はこれまで見えていませんでしたが、それは壁の大部分が天の川銀河によって隠れているためでした。

この新たな「壁」は、現在知られている中で六番目に巨大な構造物である「スローン・グレートウォール」の大きさに匹敵します。宇宙の大規模構造のうちで最大なのは「ヘルクレス座・かんむり座グレートウォール」で、約100億光年、つまり現在観測可能な宇宙の十分の一*10ほどの範囲に広がっています。

Live Science によると、この新たな宇宙の大規模構造に関しての発表は、パリ・サクレーにあるInstitut de Recherche sur les Lois Fondamentales de l’Univers所属の研究リーダーDaniel Pomarede博士により "The Astrophysical Joucal" にされたとのことです*11。依然としてこの新たな「壁」がどこで始まりどこで途切れるのか定かではなく、より大きなスケールでこの宇宙の地図を作った時初めてより良い洞察*12を得るでしょうと研究者らは述べました。

終わりに

以上、翻訳チャレンジでした。

翻訳チャレンジ2本目もあるので、よければ見てってください↓

地球の大気「何って……月まで届いてるだけだが?」

なお、論文内容の動画による解説ページがありました。宇宙すごい(こなみ)

*1:「南極の壁」というのは、元論文のタイトル "Cosmicflows-3: The South Pole Wall" 由来でしょう。

*2:原文は "Δύο ασυνήθεστες ανακαλύψεις έκαναν οι αστρονόμοι." で、OVSになってますね。現代ギリシア語はタイトルや冒頭の文でOVSが多いような気がします。ロシア語も驚いた時には動詞が最初に来るとか母語話者から聞いたの思い出しました。

*3:"αφενός ...αφετέρου ..." を「一方は…、他方は…」と解釈しましたが、あまり自信がないです……。

*4:日本語の都合で「発見されたのものは」みたいな構文にしてますが、原文では「(天文学者らが)四つの物体と大規模構造を発見した」という形になっています。

*5:ちなみに第一文の「発見をした」は原文ではανακαλύψεις έκαναν, 第二文の「発見(した)」はΒρήκανと違う単語を使っていました。近くに同じ単語を置かないようにしていますねェ~。

*6:理工学系の論文は査読前にarXivというサイトで先に公表するのが一般的です。

*7:2020/7/10に The Astrophysical Journalというところで出版されたそうです。

*8:電波銀河というのは、通常の銀河よりも高強度の電波を放出する銀河のことらしいです(天文学辞典より)。

*9:1光年はおよそ9兆キロメートル。

*10:要出典。日英でのwikipedia記事には観測可能な宇宙の半径の10.7%という数字は書いてあるものの、根拠や引用が書いてありません。この論文によると観測可能な宇宙の直径が780億光年らしいです。ヘルクレス座・かんむり座グレートウォールの長さ(長軸)は100億光年だが幅(短軸)は70億光年のようなので、幅が観測可能な宇宙の直径の1/10だという解釈は可能。

*11:原文には "με επικεφαλής τον κοσμογράφο δρα (人名)" という部分がありましたが、δραの部分の意味がわからず訳出は断念……。誰か教えてください……。 δραは δρ / Δρ (Dr.) の属格・対格だったそうです。くろつぐみさんありがとうございましたm(_ _)m(2021/03/11追記)

*12:「洞察」のところは原文ではεικόναになっており、「より良い絵って何じゃ???」ってなりましたが、比喩的にinsightの意味になるそうです (WordReferenceより)。